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DX化による顧客接点改革

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DX化による顧客接点改革

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はじめに

新型コロナウイルスによる外出自粛や加速するテレワークの流れを受け、店舗に行かずに自宅でスマホから物販や飲食を注文・購入する「非対面での購買」を選択する消費者が増えつつある。この大きな変化により、店舗での接客が中心となっていた小売業・飲食業だけでなく、店舗を商品体験の一部として位置付けていたメーカーやサービス業にとっても購買体験の再考が必要となった。昨今のデジタルトランスフォーメーションの潮流に乗り、社内向けに業務改革やシステム刷新を進めるのと並行し、ユーザ向けの顧客体験を強化すべくECサイトなどのオンラインチャネルの導入・拡充を進めてきた企業は多い。その中には、オンラインチャネルを主軸となる「対面での購買」を支える補助チャネルとして位置付けていた企業も決して少なくはなかったであろう。他方で、デジタル技術の浸透により購買チャネルだけでなく、自動音声応答やチャットボット、バーチャル店舗など、顧客とのタッチポイントも多様化してきており、顧客との継続的な関係性構築やエンゲージメントを高めるためには不可欠な要素となってきている。そこで本稿では「非対面での購買」が社会的に主流となってきた今、より良い購買体験を提供していくため購買チャネルやタッチポイントといった顧客接点全体をどのように最適化してくべきかについて考察していきたい。

顧客接点とは

(1)多様化する顧客接点

顧客接点は様々な定義の形があるが、一般的には商品やサービスを購入する「購買チャネル」と、商品やサービスを認識・理解する「タッチポイント」に分かれる。購買チャネルはECサイト(WEB)とリアル店舗が大半である。一方、タッチポイントは自社主導のWEBサイト、コールセンター、メール、スマホアプリなどから自社外のサービスやプラットフォームとしてSNS(Twitter、LINEなど)、広告(TV、YouTubeなど)、ネット記事、口コミ情報などと多岐にわたる。消費者はこれらのタッチポイントを通じて多くの情報を吸収・咀嚼し、自分のなりの評価軸や判断軸によって購買するかしないかの判断を行っていく。つまり商品購入の意思決定には購買チャネルにおける接客業務だけではなく、その前にあるタッチポイントで得られた情報も大きく影響していることになる。

(2)なぜタッチポイントが重要になっているのか

一見すると、自社商品に興味関心を持ち購入してもらう可能性を増やすためには、できるだけ多くのタッチポイントを設けて情報発信量を増やすことが望ましいように見えるが、必ずしもそうとは限らない。情報が溢れかえっている状態では、消費者がそれを吸収するだけで手一杯となり、そのボリュームを基に咀嚼・理解することへの負担を感じて一つ一つの情報に深く向き合わなくなる可能性がある。また商品の特徴や強みを発信したとしても、それが受け取り手の関心度合いの高い指標や解決してほしいペインポイント(悩みの種)でないと印象に残らない可能性もある。

(3)タッチポイントに求められる役割

では、タッチポイントとは本来どのような役割を担うべきなのか。筆者は事業やサービスによって2つ役割があると考える。まずは「①ユーザを深く知るツール」である。例えば、コールセンターでは顧客とリアルコミュニケーションを行うことができる。そのため、商品の使い方に関する応対に終始するだけでなく、なぜその商品に興味関心を持ったのか、どういった使い方をするのか、どの機能に期待値とのギャップがあったのか、といった問い合わせの背景まで拾い上げることでユーザの要望を細かく把握することが可能だ。次に考えられる役割は「②パーソナライズされた購買体験を実現するツール」である。一般的に、購買プロセスはAIDMA※1に代表されるように、大きくは認知、興味関心、比較、購買と進んでいく。広告などのタッチポイントではプロモーションとして商品やサービスの情報発信が行われているが、従来通りの年代×性別のマス向け広告のままでは顧客の理解度や関心度に合わせた情報発信に至れず、購買プロセスを先に進めることができない可能性がある。しかし、タッチポイントが顧客導線などから顧客の理解度や関心度合いを把握し、個々人に合わせた情報発信を行う機能を担えれば、購入への意思決定を補助することが可能となる。またこれは、新規購入プロセスにおける商品理解を補助することだけに限らず、リピート購入する消費財や一定頻度で買い替えが発生する家電などにおいても有効である。このようにタッチポイントをうまく有効活用することができれば、顧客体験を高めることが可能である。では続いて、具体的な事例も踏まえ、購買チャネルも含めた顧客接点全体の改革にはどのような姿があるのか述べていく。

改革のポイント

顧客接点改革の姿は4つの視点がある。一つ一つ具体的な事例と共に、ポイントを含めて触れてみよう。

(1)応対業務のデジタルシフト

顧客からの問い合わせ対応など、カスタマーサポートの領域はコールセンターが担うことが主流となっていたが、昨今は電話ではなく日常のコミュニケーション手段の延長線上でもあるSNSやチャットなどのツールを好む層も増加してきている。またWebサイト上でFAQを閲覧して自己解決を図る顧客ができるなど、問い合わせの主軸が大きく変わりつつある。そのため企業側は顧客のこうしたニーズに合わせて応対業務の変革を進めてきた。その一つが「チャットサポートの導入」である。株式会社インターネットイニシアティブでは問い合わせの多い質問に関連するFAQページにチャットサポートを設置※2。顧客がFAQサイトで自己解決が難しい際、すぐに有人サポートが得られる仕組みを構築した。また自動音声応答(IVR)にもチャットサポートを開設することで、待ち時間が少なく有人サポートが得られる環境となっている。もう一つの事例として「チャットボットの導入」がある。名古屋市ではAIチャットボットの導入により受付方法・受付時間(24時間365日対応)を拡充し、市民サービス向上を実現した※3。
有人サポートは複雑な応対にも対応できるが、その一方でオペレータを配置し続ける必要がある。問い合わせがある程度パターン化される応対についてはチャットボットで補助を行い、それでも解決が難しい場合にはチャットサポートに繋ぐようにするなど、段階を設けたデジタル化が今後は主流となっていくであろう。

(2)顧客行動データ分析

コールセンターでの応対ログやWebサイトの閲覧データなどを読み解くことで、顧客がどのような悩みや関心を持ち、どのような情報を探しているのかを把握することができる。ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン合同会社では、キャンペーンサイトのコンバージョン率※4向上を図るべく、カスタマーセンターに寄せられた顧客の声(VoC)とWebサイト行動履歴をID連携させ分析※5。セグメント分けしたユーザ群に対して約80 の施策を高速でPDCAしていくことで、Web接客、サイトUI、コンテンツなどのユーザ接点を最適化し、コンバージョン率の向上と問い合わせ数の削減を実現した。
このような取り組みを行っていくためには、VoCとWebサイトという別々のタッチポイントの情報を一意に繋ぐ顧客IDの持ち方や取得の仕方がポイントとなる。また電話応対時にオペレータが、どのようにWebサイトを見て、何がわからなかったのかというところを如何に顧客に不快感を持たせず顧客から聴取できるかといった点も重要になる。

(3)1 to 1プロモーション

1人1人の顧客に応じたパーソナライズしたプロモーションを行うことで、顧客の購買意欲を高めることが可能である。株式会社三井住友銀行はLINEの公式アカウントより顧客属性(性別、年齢、居住地、預金残高、利用頻度)に応じた情報配信を行っている※6。例えば投資信託キャンペーンのご案内や住宅ローン新商品のご案内などである。株式会社NTTドコモでは、現状のサービス契約属性や回線契約情報、ポイント利用履歴などを組み合わせてクロスセルを狙う施策対象リストを抽出し、自社メディアやSNSなどを通じて情報配信を行っている※7。
このようなマイクロマーケティング行う上でカギの一つとなるのは、類似レコメンドの仕方である。属性情報や利用情報を組み合わせてセグメント化し、そのセグメント内で最も組み合わせ数が多い商品を類似レコメンドの候補として提示するやり方は、確度は高まるものの十分とは言えない。顧客からするとレコメンド商品を購入することで生活がどのように変わるのかがイメージしづらいからである。そのため、マイクロマーケティングでクロスセルの提案をする際には、ライフスタイルの提案まで踏み込んで行うことが肝要となる。

(4)OMO(Online Merges with Offline)体験

非対面での購買体験が増えてきている中にあっても、デジタルサイト(オンライン)とリアル店舗(オフライン)との組み合わせにより、顧客体験を高めることができる。NIKEは「Consumer Direct Offense」を掲げ、渋谷に「NIKE LIVE」という形態の店舗を出店。店舗付近の会員データを基に商品の最適化を行っている。ここでは来店することで店舗内の自動販売機で無料ギフトなどを受け取ることができる。またこうしたプロモーションの前提となるアプリ会員登録を促すため、アプリ限定のスニーカーなどを販売する取り組みを行っている。会員データでは何のスポーツを行っているか、どのような商品に関心があるかといった情報まで取得している。この仕組みにより、近隣に住む顧客にマッチした店舗体験を実現している※11。
OMOはオンラインとオフラインで区別のない購買体験を提供することが多かったが、今後、非対面の購買(オンライン)が主流になっていった際には、対面での購買(オフライン)はよりパーソナライズされた高品質な接客サービスへの進化が求められることとなるだろう。

まとめ

顧客接点の改革は時代の要請ではあるものの、実現していくことは容易ではない。
よくある例は、全体戦略策定やシステム構想やソリューション構築までを完遂したところで一段落し、その先にある顧客に合わせた「チューニング」フェーズまで到達しないままプロジェクトが終了してしまうというケースである。その要因の一端は、顧客接点改革という、一種のデジタルトランスフォーメーションをいわゆるシステム導入と同様な推進・管理方法で進めているところにあると考える。
これから顧客接点改革をさらに推し進める方々にとって、上述の改革イメージや推進方法の観点が一助となれば幸いである。

 

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